HIF-PH阻害薬「エベレンゾ」の特徴は? 作用機序の研究はノーベル賞

疾患・薬剤

こんにちは!

 

皆さんHIF-PH阻害薬「エベレンゾ」ってご存知ですか?

 

 

この薬剤の作用機序は

2019年のノーベル生理学・医学賞で少し話題にもなりました。

この研究の内容は

「細胞が周囲の酸素レベルを感知し,それに応答する仕組みを解明した」

というものです。

 

……私は最初見た時、正直さっぱりでした(; ・`д・´)。

 

 

上記の研究内容も含めて

HIF-PH阻害薬ついても解説していきます。

 

 

・HIF-PH阻害薬の作用機序は「低酸素反応のシステム」を活用してもの
・エベレンゾは「腎性貧血」治療において初の経口剤
・この機構の研究は2019年のノーベル賞を受賞

 

 

 

ノーベル賞をとった研究の内容「低酸素を感知する機構の解明」

高山を登った方なら分かるかと思いますが標高が高いと酸素が薄く感じますよね。

 

すぐ息切れしてしまいます。

そのような酸素が薄い状態だと、身体が「低酸素状態」になってしまいます。

 

豆知識:標高が8,000 mを超える場所はデスゾーンと呼ばれています。        その標高では人が生存するのに十分な酸素がないそうです。絶対に登りたくないですね…

 

 

低酸素状態になった際、身体はなんとか全身の酸素濃度を上がるよう働きかけます。

酸素は赤血球によって運ばれます。

ですので、赤血球濃度を上昇させて、酸素運搬力を底上げさせたら

低酸素状態から脱出できます。

 

 

その赤血球濃度上昇のキーとなる物質が

HIF(低酸素誘導因子)というタンパク質です。

 

 

今回のノーベル賞では

このHIFがどのように赤血球を上昇させるのかが解明されたことによる受賞です。

 

 

「人間に必須の酸素を感知して応答するという基礎的な機能にかかわる仕組みが

極めて幅広い役割を果たしていることがわかった。

HIFに関する論文は年間1700本ほど出ており,必ずノーベル賞が出るだろうと思っていた」

 

上記のように語っている先生もいるように

HIF関連の研究はかなり期待されていたのでしょう。

 

2019年ノーベル生理学・医学賞:細胞の低酸素応答の仕組みの解明で米英の3氏に|日経サイエンス
酸素はほとんどすべての動物の生命維持に不可欠だ。2019年のノーベル生理学・医学賞は,細胞が周囲の酸素レベルを感知し,それに応答する仕組みを解明した米ジョンズ・ホプキンズ大学のセメンザ(Gregg L. Semenza) … 続きを読む →

 

 

 

HIFの役割とは

HIF(Hypoxia-Inducible Factor:低酸素誘導因子)の役割は

「赤血球濃度を上昇させる「エリスロポエチン」というホルモンを活性化させる」

ことです。

 

エリスロポエチンは赤血球産生を促す造血因子の一つ。腎臓で産生される。

 

 

詳しくは以下の画像で。↓

(引用元https://ct-jp.astellas.com/jp/corporate/brand/changing-tomorrow/innovation/article02.html)

 

 

 

 

普段HIFはHIF代謝酵素によってすぐに分解されるため、エリスロポエチンを活性化させません。

 

 

ただし、「低酸素状態」になるとHIF代謝酵素が働かなくなります。

そうすると、HIFがバンバンエリスロポエチンを活性化させますので

結果的に赤血球が増加して、酸素運搬力も向上します。

 

 

作用機序をもっと詳しく

※作用機序をもっと詳しく解説している画像↓

引用元https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2019/press-release/

深堀すると

HIF代謝酵素はプロテアソームというたんぱく質です。

 

※分解までのプロセス

  1. 酸素が豊富な環境でプロリン水酸化酵素(PHD)がHIFに(OH基)をくっつける
  2. HIF-OHにVHL(タンパク質)が結合
  3. 「ユビキチン」がHIF-VHL複合体に結合
  4. ユビキチンという標識をプロテアソームが認識して、これを分解。

 

 

低酸素下の場合プロリン水酸化酵素が機能しなくなるため、HIFが分解されなくなります。

 

 

分解されなくなるとHIFはエリスロポエチンを活性化させます。

そして、赤血球濃度を上昇させて身体全体に酸素を運べます。

 

 

……複雑です。

 

 

 

 

HIF-PH阻害薬とは

作用機序が分かったところで

肝心のHIF-PH阻害薬はどこに作用するのか。

 

HIFにOH基をくっつける役割のプロリン水酸化酵素(PHD)を阻害します。

 

HIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)を阻害する薬剤ということです。

 

 

薬剤としては
2019年11月時点ではアステラス製薬から発売する「エベンレンゾ」のみ
2020年以降、他社でも発売予定。
国内で開発中のHIF-PH阻害薬の表。一般名:ロキサデュスタット・社名:アステラス製薬・適応:透析期・開発段階:申請(18年9月)・適応:保存期・開発段階:P3。一般名:バダデュスタット・社名:田辺三菱製薬・適応:透析期/保存期・開発段階:申請(19年7月)。一般名:ダプロデュスタット・社名:グラクソ・スミスクライン・適応:―・開発段階:P3。一般名:エナロデュスタット・社名:JT/鳥居薬品・適応:―・開発段階:P3。一般名:モリデュスタット・社名:バイエル薬品・適応:―・開発段階:P3。
引用元https://answers.ten-navi.com/pharmanews/16757/

 

 

どのような疾患に使われるのか? 「腎性貧血」です。

このHIF-PH阻害薬ですが

適応は「腎性貧血」となります。

 

 

腎性貧血…

 

腎臓が悪くなった際の合併症の一つ。

腎臓で産生されるエリスロポエチンが全く作られなくなるため、赤血球も産生されなくなり

全身が酸素不足になってしまう疾患。

 

鉄分不足で発症する「鉄欠乏性貧血」と症状は同じだが、原因が違います。
こちらは鉄分を補えば改善することが多いです。
引用元https://ct-jp.astellas.com/jp/corporate/brand/changing-tomorrow/innovation/article02.html
この腎性貧血は腎臓が悪くなった患者が対象となるため
透析の患者や透析一歩手前の患者に使われます。
今回のエベレンゾの適応は「透析施行中の腎性貧血」であるため
対象となるターゲットは透析の患者のみです。
透析一歩手前の「保存期」の患者には適応外ですが、
そのうち適応を取ってくるでしょう。

HIF-PH阻害薬「エベレンゾ」のポイント

エベレンゾのポイント

 

  1. 腎性貧血治療薬としての初めての経口剤
  2. HIF活性化作用による鉄の利用効率が向上
  3. これまでの「腎性貧血」治療薬と違い、室温でも保存が可能になった

 

腎性貧血治療薬としての初めての経口剤

これまでの「腎性貧血」の治療には静注製剤しかありませんでした。

ESA製剤(エリスロポエチン製剤)と呼ばれるものです。

 

初めての経口剤ということですが、実際に良い評価がされているのかは不明です。

今後の動向に注目です。

HIF活性化作用による鉄の利用効率が向上

腸管で鉄の代謝を調整するヘプシジンにもHIFは作用します。

ヘプシジンが多くなると鉄の吸収が抑制されることが知られています。

 

HIFはこのヘプシジンを調節して、より効率よく赤血球を産生しているようです。

もしかしたらエベレンゾを服用することで、鉄補充剤が不要になっていくのかもしれません。

 

これまでの「腎性貧血」治療薬と違い、室温でも保存が可能になった

これまでの腎性貧血治療剤は静注製剤だったため冷蔵保存が必須でした。

 

エベレンゾは室温保存なので

薬局側からすると、エベレンゾに切り替えていくと

冷蔵庫のスペースが広がるのでメリットになります。

 

 

 

 

 

まとめ

HIF-PH阻害薬は画期的な薬剤です。

 

2019年のノーベル賞の研究テーマにもなっていました。

 

 

HIF(低酸素誘導因子)が活性化されることで、エリスロポエチンの分泌が促進されます。

それによって赤血球が産生され、低酸素状態が解消に向かうというものです。

 

エベレンゾは「保存期」の適応がとれれば、処方数は上がっていくのかなとは思います。

 

現場の先生はまだまだ様子見をしているようで

本格的な処方は来年以降になりそうな雰囲気です。

また何か情報があれば更新していきます。

 

 

それではまた!

 

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