今月薬価収載予定の薬剤の紹介の続きです。
今回は
18種類の新薬とゾルゲンスマについて
適応や作用機序などを簡単に書いていきます。
いろんな領域の薬があって、調べるのが楽しかったです。
【1】ラツーダ錠
ラツーダ錠の適応は
「統合失調症・双極性障害における うつ症状の改善」です。
販売メーカー:大日本住友製薬
一般名:ルラシドン塩酸塩
規格:20mg 40mg 60mg 80mg
用法・容量:
統合失調症
40mgを1日1回食後経口投与する。 1日量は80mgを超えないこと。
双極性障害におけるうつ症状の改善
20~60mgを1日1回食後経口投与。開始用量は20mg、
増量幅は1日 量として20mgとし、1日量は60mgを超えないこと。
統合失調症・双極性障害について
・統合失調症
認知機能障害、思考障害、感情変化と
情緒不安定な、緊張性の行動を特徴とする精神障害。
陽性症状(妄想や幻覚)・陰性症状(意欲低下や快感消失)に分類されます。
10代~20代に多く発症。
原因は明らかではないですが、
ストレスなどの環境要因と遺伝的要因が考えられています。
原因
- 中脳辺縁系でのドパミン過剰 (陽性症状)
- 中脳皮質系でのドパミン低下 (陰性症状)
⇒セロトニンによってもドパミン放出は抑制。
・双極性障害
うつ状態とは対極の躁(そう)状態があらわれ、
「うつ」と「そう」をくりかえす慢性の病気。
作用機序
ラツーダは「非定型抗精神病薬」の中の
SDA(セロトニン・ドパミン受容体遮断)に属しています。
作用機序
- 中脳辺縁系のドパミンD2受容体の遮断(陽性症状改善)
- 中脳皮質系のセロトニン5-HT2A受容体の遮断(陰性症状改善)
- セロトニン5-HT7受容体、5-HT1A受容体の部分作動
(パーシャルアゴニスト)(うつ症状改善)
【2】メラトベル顆粒小児用
メラトベル顆粒の適応は
「小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善 」です。
国内初の適応です。
販売メーカー:ノーベルファーマ
一般名:メラトニン
規格:0.2%/1g
用法・用量:
1日1回1mgを就寝前に経口投与。
症状により適宜増減するが、1日1回4mgを超えないこと。
神経発達症と入眠困難について
神経発達症とは
情動・学習能力・自己コントロール・記憶といった
様々な知的活動に影響する、脳機能の障害のこと。
主な障害
- 知的能力障害群(知的障害)
- コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群(吃音など)
- 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
- 注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(ADHD)
- 限局性学習症/限局性学習障害
(ディスレクシアなど、いわゆる「学習障害」) - 運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)
神経発達症の小児では、睡眠障害の合併率が高いとの報告があります。
神経発達症群の中でも
自閉スペクトラム症では50~80%、
注意欠如・多動症(ADHD)では25~50%
の割合で睡眠障害が併存するという報告もされています。
原因:
- 「睡眠ホルモン」メラトニンの分泌障害・分泌量の不足など
メラトニンは「睡眠ホルモン」と言われるように
夜間の分泌量が多いほど質の良い眠りにつけると考えられています。
神経発達症の子どもでは、メラトニンの調整が上手くいかず
入眠困難になってしまいます。
作用機序
メラトベルの有効成分は「メラトニン」です。
脳内のメラトニン受容体に作用して睡眠作用を促進させます。
また、概日リズムをしっかり維持してくれるよう作用します。
【3】ロケルマ懸濁用散分包
ロケルマの適応は「高カリウム血症」です。
数十年ぶりのカリウム吸着剤となっています。
販売メーカー:アストラゼネカ
一般名:ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物
規格:5g 10g
用法・用量:
開始用量として1回10gを水で懸濁して1日3回、2日間経口投与。
最長3日間まで経口投与できる。
以後は、1回5gを水で懸濁して1日1回経口投与する。
最高用量は1日1回15gまでとする。
血液透析施行中の場合
通常、1回5gを水で懸濁して非透析日に1日1回 経口投与する。
最高用量は1日1回15gまでとする。
高カリウム血症とは
カリウムは体内に含まれる電解質(ミネラル)。
心臓をはじめとした全身の筋肉が働くのに必要な物質。
主な役割
- 細胞内で浸透圧の調整
- 筋肉の収縮
- 神経の働きを保つ
基準値:3.6~5.0mEq/L
5.5mEq/Lを上回ると高カリウム血症と判断されます。
原因:
- カリウム排出機能の低下
腎不全など - カリウム量の増加
薬剤性など
排出機能が低下してしまうと発症しやすくなるので
腎臓は大切にしましょう。
作用機序
ロケルマは「カリウム吸着薬」です。
腸管内でカリウムを選択的に吸着して
カリウムが体内に吸収されるのを防ぎます。
周囲にカルシウムやマグネシウムなどがあっても
上手くカリウムだけをキャッチして、そのまま対外に排出されます。
また、ロケルマは非ポリマー系の吸着薬となっており、
今までのポリマー系にみられた「腸管内での膨張」がないとされています。
お腹が膨らんで苦しくなるのが軽減されたのですね。
【4】キャブピリン配合錠
抗血小板作用のアスピリンと胃酸分泌抑制作用のタケキャブの配合剤ですね。
名前の由来:「タケキャブ + アスピリン」
適応は
下記疾患又は術後における血栓・塞栓形成の抑制です。
(胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る)
- 狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)
- 心筋梗塞、虚血性脳血管障害 (一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞)
- 冠動脈バイパス術(CABG)あるいは
経皮経管冠動脈形成術(PTCA) 施行後
販売メーカー:武田薬品
一般名:アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩
規格:アスピリン/ボノプラザン 100mg/10mg
用法・用量:
1日1回1錠(アスピリン/ボノプラザンとして100mg/ 10mg)
を経口投与。
虚血性心疾患とPPIについて
虚血性心疾患
心臓に栄養や酸素を供給する血管(冠動脈)が狭くなったり
閉塞したりして心筋に血液がいかなくなって起こる疾患。
虚血性心疾患に含まれる疾患
- 狭心症
- 心筋梗塞
- 虚血性心不全
原因:
- 冠動脈硬化
⇒生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症(高脂血症))
によって引き起こされる。
生活習慣病の患者は、血管内にコレステロールや脂質が溜まりやすくなっています(プラーク)
そのプラークが傷つくと、それを修復しようと血小板が集まってきます。
集まりすぎて(血栓)血管を詰まらせると心臓に血がいかなくなります。
これを防ぐために抗血小板作用のある薬剤(アスピリン)を使います。
・PPI
プロトンポンプ阻害薬。
胃内において胃酸分泌を抑え、
胃潰瘍などを治療し逆流性食道炎に伴う痛みや胸やけなどを和らげる薬。
胃酸は、胃の「壁細胞」から分泌されます。
壁細胞の「プロトンポンプ」に刺激が伝わると
カリウムイオン(K⁺)を取り込み、水素イオン(H⁺)を放出します。
H⁺は演歌イオン(Cl⁻)と結合して胃酸(HCl)となって胃内に分泌されます。
PPIは
この「プロトンポンプ」を阻害してH⁺の放出を防いでいます。
PPIは
低用量アスピリン(バイアスピリンなど)服用中の胃潰瘍・十二指腸潰瘍の
発生を抑える目的で使用する場合や
ヘリコバクター・ピロリの除菌治療の薬剤の一つとして使用する場合もあります。
作用機序
アスピリン
血小板凝集促進作用のある「トロンボキサンA2(TXA2)」の
合成を抑制します。
凝集を防ぐことで、血栓を形成させないようにします。
高用量のアスピリンだと血小板凝集抑制採作用のである
「プロスタグランジンI2(PGI2)」まで合成阻害してしまうので
低用量が広く使われています。
低用量アスピリンを長期間使用すると
胃粘膜保護にかかわっている物質の合成を抑制します。
その結果、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症することがあります。
そのため、アスピリンを使用する際はPPIを併用することが推奨されています。
タケキャブ
カリウムイオン競合型アシッドブロッカー型のPPIです。
他剤との違いは
酸による活性化が必要ない点ですね。
そのため、効果発言時間がこれまでのPPIより早くなっています。
今回
キャブピリン配合剤にすることで
服薬錠数を減らし、一日薬価も安くしています。
患者さんにとってメリットのある薬剤になったのですね。
【5】カボメティクス錠
カボメティクス錠の適応は
「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌 」です。
販売メーカー:武田薬品
一般名:カボザンチニブリンゴ酸塩
規格:20mg 60mg
用法・用量:
1日1回60mgを空腹時に経口投与する。
患者の状態により適宜減量する。
転移性腎細胞がんについて
腎細胞がんは腎実質の細胞から発生するガン。
男女比は約2対1で男性に多く、高齢になるほど発生頻度も高くなります。
特徴的な症状がないため、小さいうちに発見される腎細胞がんは
他の病気のための検診や精密検査などで偶然に発見されるものがほとんどです。
肺や脳、骨に転移したがんが先に見つかり
結果として腎細胞がんが見つかることも少なくありません。
腎細胞がんが大きくなると
- 血尿が出たり
- 背中・腰の痛み
- 腹部のしこり
- 足のむくみ
- 食欲不振、吐き気や便秘
- おなかの痛み
などが生じたりすることもあります。
腎細胞がんの治療の選択
腎細胞がんに対する標準治療は「手術(外科治療)」です。
出典:日本泌尿器科学会編「腎癌診療ガイドライン2017年版」
手術により敵手できない場合や手術前に癌細胞を小さくしたい場合、
他の臓器に転移がある場合などに分子標的薬を使います。
分子標的薬にはオプジーボなどがあります。
がんの増殖と血管新生
がん細胞はVEGF(血管内皮細胞増殖因子)などを放出して
血管から酸素や栄養素をもらうために
血管を自分のところに引っ張ってきます。
VEGFが血管のVEGF受容体(VEGFR)に結合することで
血管を作ることができます。これを「血管新生」といいます。
このVEGFR、がん細胞の細胞膜にもあります。
また、がんの増殖に関わるMET(幹細胞増殖因子受容体)、
抗がん剤への耐性獲得やがんの増殖に関わるとされている
AXL(成長停止特異的タンパク質6受容体)も存在しています。
- VEGFR
- MET
- AXL
上記の受容体は、がん細胞の増殖活性化に関わっていると考えられています。
作用機序
カボメティクス錠はVEGFR/MET/AXLを選択的に阻害します。
血管のVEGFRを阻害することで「血管新生」を防ぎ、
VEGFR/MET/AXLを阻害することで、がん細胞の増殖活性を抑制します。
【6】テプミトコ錠
テプミトコ錠の適応は
「MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の
切除不能な進行・再発の 非小細胞肺癌 」です。
この適応は国内初とのこと。
販売メーカー:メルクバイオファーマ
一般名:テポチニブ塩酸塩水和物
規格:250mg
用法・用量:
1回500mgを1日1回食後に 経口投与する。
患者の状態により適宜減量する。
MET遺伝子変異の非小細胞肺がんについて
肺がんは
気管支や肺胞の細胞ががん化した悪性腫瘍です。
非小細胞肺がんと小細胞肺がんの2つの組織型に分けられます。
非小細胞肺がんはさらに3つに分類されます。
- 扁平上皮がん
- 腺がん (肺がんの全体の60%)
- 大細胞がん
非小細胞肺がんは特定の遺伝子変異にあわせた治療ができます。
MET遺伝子
がん細胞「c-MET」と呼ばれる受容体をもっています。
ここにHGF(幹細胞増殖因子)が結合することで
がんの形成や悪性化に繋がると考えられています。
MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性
非小細胞肺がんの一部の患者では、METエクソン14スキッピング変異
していることがあります。
変異しているとHGFがなくても、c-METが反応してしまい
がん細胞が増殖し続けてしまいます。
作用機序
テプミトコ錠は上記の変異したc-METを阻害する薬剤です。
【7】ベレキシブル錠
ベレキシブル錠の適応は
「再発又は難治性の中枢神経系原発リンパ腫 」です。
また、標準治療が確立していない再発又は難治性のPCNSL患者の治療薬として
世界で初めて承認されたBTK阻害剤です。
販売メーカー:小野薬品
一般名:チラブルチニブ塩酸塩
規格:80mg
用法・用量:
1日1回480mgを空腹時に経口投与する。
患者の状態により適宜減量。
中枢神経系原発リンパ腫 について
中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)は悪性リンパ腫の中でも
中枢神経系(脳・脊髄・眼球)に発生したもの。
原因となるリンパ腫細胞は「B細胞」がほとんど。
男性にやや多く、好発年齢は50〜80歳で全脳腫瘍の2〜6%を占めています。
特に60歳台に多く、罹患率が近年上昇しています。
標準治療は
メトトレキサート療法です。
その後、放射線治療が行われています。
しかし、
多くの患者は再発し、薬物療法がきかない難治性患者も存在します。
作用機序
ベレキシブル錠は選択性の高い経口BTK阻害剤です。
中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)は「B細胞」由来のリンパ腫でしたね。
そのため、このがん細胞はBCRを有しています。
BTK阻害薬は
BTKを阻害することでシグナル伝達を遮断して
がん細胞の増殖を抑制します。
【8】アネレム静注
アネレム静注の適応は
「全身麻酔の導入及び維持 」です。
販売メーカー:ムンディファーマ
一般名:レミマゾラムベシル酸塩
規格:50㎎/1瓶
用法・用量:導入
12m/kg/時の速度で、患者の全身状態を観察しながら、
意識消失が得られるまで静脈内へ持続注入する。
維持
1mg/kg/時の速度で静脈内への持続注入 を開始し、
適切な麻酔深度が維持できるよう患者の全身状態を観察しながら、
投与速 度を適宜調節するが、上限は2mg/kg/時とする。
覚醒徴候が認められた場合には、最大0.2mg/kgを静脈内投与。
全身麻酔について
全身麻酔に必要な条件
- 意識の消失
- 無痛
- 筋弛緩
- 有害反射の抑制
患者は手術による痛み、恐怖を感じることなく
痛みによる反射反応も消失するため、安全に手術を行うことができます。
これら条件を満たす薬剤は
ディプリバン(プロポフォール)やドルミカム(ミダゾラム)があります。
他剤との違い
アネレムは
高齢者や循環動態が不安定な患者を含め
幅広い患者に対して使える安全性の高い薬剤です。
安全性に関して
血流などの循環抑制が少なく、注射部位の反応も少ない。
また、
ドルミカムと類似した構造ですが
ドルミカムと違い、半減期が短く、代謝物の活性がありません。
ディプリバンなどは循環動態変動(血圧低下・心抑制)や
注射時の痛みを引き起こし、半減期も長いようです。
アネレムは安全性の高さが特徴ですね。
【9】ベオビュ硝子体内注射用キット
ベオビュの適応は
「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性 」です。
販売メーカー:ノバルティスファーマ
一般名:ブロルシズマブ・遺伝子組み換え
規格:120mg/mL(6mg 0.05mL1筒)
用法・用量:
6mg(0.05mL)を4週ごとに1回、
連続3回(導入期)硝子体内投与する。
維持期においては、通常、12週 ごとに1回、硝子体内投与する。
症状により投与間隔を適宜調節するが、8週以上あけること。
加齢黄斑変性について
加齢黄斑変性は
黄斑が加齢とともに障害を受け、視力の低下などを引き起こす病気です。
欧米では失明の原因の第1位となっています。
原因:加齢と共に網膜の下にある網膜色素上皮細胞に老廃物が蓄積して
間接的に黄斑が圧迫され、障害されるのが原因と考えられています。
また、肥満や喫煙などの生活習慣病、
紫外線(UV)やブルーライトなどのエネルギーの強い光による
ダメージも発症原因として考えられています。
中心窩下 脈絡膜 新生血管
網膜の下に「脈絡膜」というの部分があります。
網膜に老廃物が溜まっていくと
それを処理するために脈絡膜から新しい血管が作られます。
この血管が「新生血管」といいます。
新生血管は血液成分がもれやすい、出血しやすいなどの性質があり、
網膜の下や網膜色素上皮の下に血漿や血液がたまっていきます。
この新生血管にはVEGFーA(血管内皮増殖因子)が関わっています。
VEGFが過剰に分泌されると異常に血管が作られていきます。
作用機序
ベオビュは新生血管に関わるVEGF-Aを特異的に阻害します。
異常な新生血管を抑制するので、加齢性黄斑変性の症状を改善します。
まとめ
今回は新しく承認予定の新薬について
作用機序や疾患について解説しました。
ガン関連は細かい部分までは紹介できなかったので
興味のある方はぜひ調べてみてください。
自分の知らない領域だと中々勉強しませんが
新薬をキッカケに知ってもらえたら嬉しいです。
後半もぜひ読んでみてください
それではまた!
コメント